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数学はどこまでを常識としているのか?

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Twitterのフォロワーと「なんで0!=1なの?」という話をしてた際にもらった返信を一部引用。

なんでや!0!=1って定義する為にまずは証明しようね(ニッコリ って言われた記憶があるぞ!数学ってどこまで常識としていいかわからないのがからい

 ───鍵垢にて匿名

 という訳で、自論を以下述べます。

まず、1つ大事なことを。

 0.「0!=1」は常識なのか?

常識じゃないと思います。ぶっちゃけ知らなくても生活できますし。でも、理学系の方は知っといた方がいいと思います。

「数学はどこまでを常識としているのか?」という質問は言葉の捉え方によって多くの解答があるため、私が思いついたものを3つ程述べます。

 

 1.問題による

幾何学の問題を1つ例示します。

「半径が5cmの円の面積を求めなさい。」

だいたいの方は、この問題を解くことができるか、解けなくても何を自分に求められているかは理解できると思います。

もう1つ、大学レベルの代数学の問題を例示します。

「体のイデアルは,自明なイデアルのみであることを示しなさい。」

ここで、抽象代数学にあまり縁のない人は「体とは?イデアルって何?」となると思います。さらに言えば、出題者が自分にどのような解答を求めているのか分からない人も居ると思います。

当然ですが、問題に取り組むためには、その問題の中に出てくる言葉が何を意味しているのかを知っていなければなりません。それらはこの問題を解く上での常識と言ってもいいでしょう。

円を知らない幼稚園児は前者の問題を理解できませんし、極端なことを言えば後者の問題を解くのに円の面積の求め方を知っている必要はありません。(出てくるキーワードが円や面積と関係ないので)

このように、ある程度応用性がある問題には「それらの説明なく突然使われる単語」というものが存在します。もし、常識がこのような物事を指すならば、「取り組んでる問題による」というのが答えとなるでしょう。

 

 2.公理による

過去に何回か聞かれた話題なので、ここで明らかにしておきます。

「公理」とは、

理学において導出の基礎となるもの.

広い意味で,ある名前の付いた概念を定義する条件をこう呼ぶこともある.

───はてなキーワード

「定義」とは、

ある概念の内容を限定すること。概念の中に含まれる意味の中から本質的な部分を抜き出し他と区別すること。

───はてなキーワード

「定理」とは、

主に数学上で、極めて自明な公理、公準から演繹して、正しいと認められた真理のこと。

───はてなキーワード

です。そして、もう1つ重要な言葉として「命題」があります。

命題とは、

一般に「何々は何々である」といった平叙文が表現する意味内容のこと。良く混同されるが、命題は文そのものではなく文の意味内容である。

───はてなキーワード

これら4つの言葉は時折混同されがちですが、これらは明確に区別すべき言葉です。

それぞれを端的に言うと、

命題とは、真偽が明確な主張です。

(例)円は曲線である。

注意:偽のときも命題です。(「1は0より小さい。」も命題)

公理とは、議論をする上で無条件に正しいと認める命題です。

(例)平面上に2つ点があったら、それらを通る直線を引くことができる。

定義とは、議論をする上で便利な概念の取り決めです。

(例)直線とは、二点間を最短距離で結ぶ線である。

注意1:1つの対象に対し、様々な定義の仕方がある場合もあります。
注意2:定義は命題ではないです。なぜなら、概念に呼び名を付けることには真偽もへったくれもないからです。

定理とは、公理から議論を経て得られる命題です。

(例)直角三角形の斜辺の長さの二乗は、他の辺のそれぞれの長さの二乗の和に等しい。

 

公理は「これから議論するけど、これは無条件に認めてもいいよね?」という約束といえます。そして、一度議論が始まればそれは常識となります。

例えば、私達が初等数学で「平面」を持ち出すとき、いくつかの公理を認めることになります。それは、

  1. 2つ点があるとき、一方の点から他方の点へ直線を引ける。
  2. 有限の直線は連続にまっすぐ延長できる。
  3. 任意の中心と半径で円を描ける。
  4. すべての直角は互いに等しい。
  5. 直線が2つの直線と交わるとき、同じ側の内角の和が2直角より小さい場合、その2直線が限りなく延長されたとき、内角の和が2直角より小さい側で交わる。

「当たり前ですやん」と思うかもしれませんが、これを明確にするのは大事なことです。公理として明確にしないと「おいおい!勝手に点から点へ直線引いていいって誰が認めたんだ~?」って言われてしまう可能性があるからです。

これらはユークリッドの原論という数学書によって確立された公理です。そして、この公理を認めた上での幾何学を「ユークリッド幾何学」と呼びます。

そして、この公理を採用しない幾何学もあります。それは「非ユークリッド幾何学」です。

例えば、非ユークリッド幾何学の1つには、上述の1~4を公理として認めるものの、5を否定したものを公理として採用する幾何学があります。

もちろん、非ユークリッド幾何学の議論をするならば、それらの公理は議論をする上での常識となるでしょう。

したがって、公理が議論をする上での常識と言うならば、「何の公理を採用するかによる」が答えとなります。

余談。

もう1つ、前述に「1つの対象に対し、様々な定義の仕方がある場合もあります。」と書きました。例として、数学で円周率に並ぶぐらい重要な定数、ネイピア数の定義についてご紹介します。

ネイピア数eには、様々な定義方法があります。

  1.  \displaystyle{e=\frac{1}{0!}+\frac{1}{1!}+\frac{1}{2!}+\frac{1}{3!}+\cdots}ネイピア数eとする。
  2.  \displaystyle{e=\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n}ネイピア数eとする。

  3.  \displaystyle{\frac{d}{dx}a^x=a^x}を満たすような実数aをネイピア数eとする。

これらは異なる定義に見えますが、実は、全て同じ主張であることが証明されています。

しかし、議論をする上で1つの物事に対し複数の定義が存在するというのは混乱を招きます。したがって、その内の1つを定義として用いて、他方は定理として「全く同じものである」ということを証明して議論に組み込む。という手法がよく用いられます。

したがって、定義を議論する上での常識と言うならば、全く同様に「どの定義を採用するかによる」ということになります。

 

3.時と場合による

 若干、結論が2とかぶるかもしれませんが、一応紹介しておきます。

自然数という数があります。自然数とは1,2,3,…というヤツです。

実は、分野において自然数が0を含むときと、自然数が0を含まないときがあります。

つまり、自然数の定義が0,1,2,3,…である場合と、1,2,3,…である場合があります。

なんでこんな理解しがたい状況が発生するかというと、それぞれで都合が良いときがあるからです。

0を自然数とすれば、何も物がないときにその個数は0個であると言え、「物の個数は自然数で表すことができる」と言えます。これは便利です。

一方で、0は自然数でないとすれば、0でないすべての自然数は逆数(aに掛けたら1になるような数bを、aの逆数という)を持つので、これも便利です。

なので、議論を始める際に「ここでは自然数って言ったら0,1,2,3,…のことね」などと予め断っておくのが丁寧ですが、一部の状況・分野において「どちらを採用するか明らかなとき」というのがあります。それは一種の常識と言うことができるでしょう。

似たような話では、「直線は曲線に含まれるか」などもあります。これらの曖昧な議題は結局、「時と場合による」としか言いようがないでしょう。

4.結論

よっぽど限定的な状況を提示されない限り、「ここからここまでが常識だよ」という答えはないと思います。

コメントや質問などはTwitterで下さると反応しやすくて助かります。
誤字脱字などの指摘もお待ちしております。

おわりおわり。

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この文章を書いたやつ。