1年間半、ラヴニカの「ギルド・キット」10種で遊んだ感想
2018年秋・2019年春に発売されたギルド・キットを遊び倒したので、感想を書いてみた。
前略。
ご存知だとは思うが、私がマジックで最も好きな次元はラヴニカである。Twitterのプロフィールにもそう書いてある。
ラヴニカはマジックにおける古株かつ人気次元であり、多くのプレイヤーやプレインズウォーカーに愛される次元である。
その景色は、地平線までを覆う程の尖塔が並び、道々は他の次元には見られない程の多種多様な種族(人間、エルフ、ゴブリン、ミノタウルス、巨人、ドライアド、オーガ、ヴィーアシーノ、ロクソドン、ケンタウルス、天使、デーモン、インプ、ヴィダルケンなど)が各々の生活の為に往来する先進的都市である。地平のほとんどは都市に覆われているので自然と言えるような自然は少なく、ラヴニカにおいて平地は広場、島は上水路、沼は下水道、山はそびえ立つ尖塔であり、森はそこらへんの街路樹である。
そんなラヴニカを支配するのは10つのギルドである。それらは各々が異なる信念をもち、ゲームにおいてはそれぞれ2色の組み合わせを与えられている。(白・青・黒・赤・緑から2色の組み合わせなので10つである)
それぞれのギルドには指導者であるギルドマスターがおり、その下で多くの構成員がギルドの為・ラヴニカの為・私利私欲の為に働いている。ギルドには表向きの仕事(銀行経営、インフラ整備、治安維持、はぐれものの受け入れなど)があるが、結局の所どのギルドも大目標は自勢力の拡大と信念の普及であり、表向きでは協力関係にあるギルドだとしても構成員の内心は知れたものではない。
私が好きな次元は、そんなろくでもない次元である。
今回はラヴニカのカードのみで構成された構築デッキ、ギルド・キットを1年間遊び倒した私が、その紹介とどう遊んだのかとその感想を述べるだけの記事である。お付き合いいただければ幸いである。
ギルド・キットとは何か
ギルド・キットとは、2018年秋の『ラヴニカのギルド』と2019年春の『ラヴニカの献身』に合わせ発売された構築デッキ群である。
キットの内容は過去のラヴニカ(ラヴニカ・ブロックとラヴニカへの回帰・ブロック)と最新のラヴニカ(『ラヴニカのギルド』と『ラヴニカの献身』)から、そのギルドの構成員であるクリーチャーや構成員が使う呪文をかき集めたフレーバーガン寄せのデッキと、「ギルドメンバーであることを誇示しろ」と言わんばかりのピンバッジ、シール、簡易デッキケース、あと怪文書である。
特に、このデッキに入っている基本土地はそのギルドの本拠地を映した特殊アートとなっており、比較的人気の高いラヴニカの基本土地をさらに一歩踏み込んで堪能できるアートとなっている。「己はギルドメンバーである」という自覚があるならば、是非この基本土地を戦場に叩きつけていきたい。
特殊アートやデッキレシピの詳細はWizards公式の商品紹介ページを参照していただきたい。
各ギルドのデッキ紹介
各ギルドの行動規範はゲームにも反映されている。各ギルドのクリーチャー及び呪文はある戦法を推奨する形でシナジーを成しており、ギルドマスターである伝説のクリーチャーはそれを力強く後押しする性能となっている。
これから、それぞれのデッキが見せる一面を軽く紹介する。
(「だいたい何やるか分かる」という人は飛ばしてください。)
白青のギルド「アゾリウス評議会」
アゾリウスは盤面をコントロールし、フライヤーで攻めるコントロールデッキである。
ギルドメカニズムである留置*1を持つクリーチャーや多くの打ち消し呪文を採用しているので、相手のテンポを崩した後に優秀な飛行フィニッシャーを叩きつける王道的コントロールムーブが実現できるデッキである。
白黒のギルド「オルゾフ組」
オルゾフは死亡・生贄シナジーでアドバンテージを稼ぐデッキである。
クリーチャーを生け贄に捧げることで恩恵を受けられる呪文やクリーチャーが多く採用されており、クリーチャーは相手を殴ること以外にも様々な役割が求められる。
ギルドメカニズムである死後N*2と組み合わせ、相手のリソースをじわじわ削って勝利をもぎ取るデッキである。
青黒のギルド「ディミーア家」
ディミーアは相手のライブラリーを削ることに軸を据えたデッキである。
とにかく除去とライブラリー破壊に長けており、相手の墓地に落ちたカードを利用するクリーチャーが多く用いられている。ギルドメカニズムである暗号*3を活かす為、回避能力に優れたクリーチャーも採用されており、ブン回れば多大なマナを要する呪文を毎ターン恒久的にコピーすることができる。また、戦略上相手がライブラリーアウトすることがよくある。
ちなみに、ギルドキットの中で伝説のクリーチャーが最も多く、5体有する。
青赤のギルド「イゼット団」
イゼットはインスタントとソーサリーを唱えることに重きを置くデッキである。
インスタントとソーサリーが多く採用されており、クリーチャーも総じてそれをサポートする能力を有する。ギルドメカニズムである再活*4は1枚のカードを2回唱えることができるので、唱えることで誘発する能力を何度も誘発させることができる。また、飛行と得意とする青と火力を得意とする赤の組み合わせなので、凄まじいパワーをもつ飛行クリーチャーを作ることが可能である。
後述するが、大きな問題を抱えている。
黒赤のギルド「ラクドス教団」
ラクドスは相手にダメージを与えることで大きなメリットを得るデッキである。
とにかく性能が前のめりで、自らにもダメージを課しながらも相手のライフを削ることに余念がない。ギルドメカニズムである絢爛*5呪文を始めとし、相手がダメージを負うと報酬があるカードが多量に採用されている。本体火力が最も多く採用されているので、バーンデッキのように立ち回ることができる。
黒緑のギルド「ゴルガリ団」
ゴルガリは自らの墓地にクリーチャーカードがあることで恩恵を持たすデッキである。
歴代ラヴニカを代表するぶっ壊れ能力、発掘N*6を有するカードが複数枚入っており、墓地を肥やす手段には困らない。それによって肥えた墓地からはリアニメイトでクリーチャーを蘇らせたり、ギルドメカニズムの宿根*7によって大きくアドバンテージを得ることができる。
赤緑のギルド「グルール一族」
グルールは高パワー・高タフネスのクリーチャーを叩きつけ、相手を圧倒するデッキである。
ラクドスと同様に前のめりなアグロデッキだが、こちらはあくまでもクリーチャー主体であり、狂気N*8を代表とするすべてのギルドメカニズムがクリーチャーを強化する能力である。特に、クリーチャーでない呪文の多くクリーチャーを強化するモードをもつ。
ギルドデッキには大きなサイズのクリーチャーを複数除去する手段が限られているので、ギルドキットの中で最強格の一つである。(個人的な見解です)
赤白のギルド「ボロス軍」
ボロスは優秀な軽量クリーチャーを育成しながら攻めるデッキである。
低マナ域のクリーチャーが厚く、それぞれの性能が優秀なので序盤から相手を攻め立てることができる。大隊*9や教導*10など、複数のクリーチャーで攻撃すると大きなメリットをもたらすギルドメカニズムを有する。育成される側と育成する側が生き残れば、戦闘フェイズで手の付けられない状態ができあがる。
前述の通り軽量クリーチャーが多いので、「クリーチャーが全然出せない」といった事故が起きにくく安定性が高い。ギルドキットの中で最強格の一つである。(個人的な感想です)
緑白のギルド「セレズニア議事会」
セレズニアはトークン・クリーチャーを増やしながら戦うデッキである。
クリーチャー・トークンを出す呪文を始点とし、それを守れるエンチャントを活用し盤面を支配するデッキである。苗木・トークンは比較的量産しやすく、クリーチャーをマナコストの支払いに充てられる召集*11との相性が抜群である。また、5/5のワーム・トークンなどの大きめのトークンが場に出ているならば、居住*12を行うことで増やすことができる。
エンチャントが4種5枚も入っており、エンチャントを割る手段が限られているギルドデッキの中では非常に厄介な構成となっている。ギルドキットの中で最強格の一つである。(個人的なあれです)
緑青のギルド「シミック連合」
シミックは+1/+1カウンターを大量に乗せ、それを利用して戦うデッキである。
順応N*13を始め、シミックのギルドメカニズムはすべて+1/+1カウンターを乗せる能力である。また、カウンターの倍増、移し替え、カウンターが乗っているクリーチャーへの能力付与など、カウンターが乗ったクリーチャーへのサポートが充実している。グルールと違い突然巨大クリーチャーが出てくる訳ではないので、盤面が整うのに時間は掛かってしまうが、呪禁持ちや飛行持ちを育て上げれば、手が付けられない盤面となる。
ギルド・キットで遊ぼう
基本的に、構築済みのデッキを崩さずにそのまま楽しむのがセオリーである(崩すと後でギルドごとに分けるのが面倒くさい)。
多少のデッキ間での有利不利は存在するが、デッキレシピを見ての通り土地基盤は安定してるとは言えず、またどのカードも大抵1枚、多くて2枚という構成であり、デッキに安定感がない。良く言えばどのデッキも全デッキに勝てる可能性があると言える。毎回出てくるカードが異なるという意味では、ギルド・キット同士の試合に中々飽きが来ない一因になっている。
一応、各デッキにブン回りムーブは存在するが、前述の通りそれが安定して出せることは無いので、その時その時の立ち回りを楽しむのが吉。
ここからは、私と身内がギルドキットを使って実践した遊び方を紹介していく。
1戦マッチ
ギルド・キットにはサイドボードが用意されていないので基本は1戦マッチで遊ぶこととなる。ぶっちゃけ、これが一番素早くプレイでき一番シンプルで楽しい。
自分の推しギルドを互いに選び試合をするのもいいが、どうしても同じデッキを何回も回すと飽きが来るので、10つのギルド・キットからランダムに選んで勝負すると色々なカードが楽しめてよい。
プレインチェイス戦
カジュアルっぷりが加速する。個人的に一番好きな遊び方。
あまりメジャーではないと思うので軽く説明すると、全体エンチャントのような効果が書かれた「次元カード」を場におき、その影響下で試合をするというものである。例えば、以下のようなものがある。
しかし、次元カードによっては自分に不利な効果が書かれていることがあるので、その都度プレインズウォーク*14し、自分の有利な次元で戦うことが求められる。プレインチェイスするには1面にプレインズウォーク・シンボル、1面にカオス・シンボルが描かれた6面ダイス(次元ダイスとよばれる)を振り、プレインズウォーク・シンボルを出す必要があるのだが、カオス・シンボルが出てしまった場合は次元カードに書かれたカオス能力が誘発することとなる(大抵、試合がとんでもないことになる)。
次元カードによっては、プレインズウォーク*15した瞬間クリーチャーがすべて破壊されるなど、ブッ飛んだ能力が発動する。
このルールは大人数でやるととても楽しい。…のだろうが、私はまだ2人対戦でしかプレイしていない。だれか一緒にプレイしてくれ。
統率者戦
各ギルド・キットには伝説のクリーチャーが存在する。ここから1枚を統率者として選び、残りの59枚で統率者戦を行うというものである。
初期ライフが25点から開始するのでアグロデッキには厳しい戦いになるかもしれないが、マナさえ伸びれば確実に統率者を出せるという点ではやりようがある。
また、伝説のクリーチャーは複数体存在するので、どのクリーチャーを統率者とするか考えるのも一興である。
「デッキが59枚だと気持ちが悪い」と思うのなら、別途に《統率の塔》を用意し1枚ずつ混ぜ込んでもよいかもしれない(試合が終わったらちゃんと抜くように)。
ギルド・キットの問題点
さて、ここまでギルド・キットの内容や遊び方を紹介してきた。しかし、個人的に看過できない問題がある。
それは、イゼットのデッキが明らかに弱いことである。
前述のデッキ紹介で、イゼットのデッキの主軸は「インスタントやソーサリーを唱えるシナジー」であると語った。つまり、基本的には盤面をシステムクリーチャーで固めながらインスタントやソーサリーを大量に唱えることが肝要となる。
しかし、なんか全体的に呪文が微妙なのである。
一部、例と個人的な評価を挙げよう。
この《破壊放題》は、破壊したいアーティファクトの数だけ赤マナを支払えばこのカード1枚ですべて破壊できる、という破格のアーティファクト破壊呪文である。
しかし、全ギルド・キットにアーティファクトはマナファクト2枚しか入っていないのである。
すなわち、これ1枚でできることは相手が2マナを支払って場に出したマナファクトを1マナで破壊する、ということだけである。これはギルド・キット同士の戦い特有の問題なので、しょうがないかもしれない。
この《いかづち頭》は、インスタントタイミングでそのターン限りの3/3、防衛・飛行持ちクリーチャーを場に出す呪文である。また、追加でコストを払えばトークンをさらに出すことができる。
言うまでもなく攻撃クリーチャーしか除去できない。また、タフネス4~6以上の除去には6マナ要するし、7以上は9マナ要する。
除去した後は何も残らないので、他の除去カードに比べ著しくコスパが悪い。クリーチャー除去を不得意とする青なのだから致し方ないかもしれないが、本音を申すとそういうのは赤いカードにやらせろ。
一応、呪禁持ちを討ち取れる。
貴重なX呪文である。Xマナ+3マナを支払うことでXドローか任意対象にXダメージを飛ばすことができる。
どちらかのみであり、しかもソーサリーである。
X呪文を活用するためにできる限りXを大きくして唱えたいが、そうすると大抵土地が全部寝るので相手がやりたい放題してくる。流石に悠長である。
アゾリウスが《スフィンクスの啓示》を有していることを考えれば、あまりにもテンポ損著しいことが分かる。
特に、こいつが問題である。
《啓発のジン》は7マナ支払うと召喚でき、場に居るとインスタントかソーサリーは複製する権利をくれるありがたいクリーチャーである。もちろん複製する際は追加のコストを支払わなければならない。そして、複製でコピーした呪文は唱えた判定にならない。
そして、飛行の3/5である。
オアアアアア!!
解決策
特に、《啓発のジン》と《火想者の発動》はこのデッキに噛み合ってるとはいえない。なぜなら、インスタントかソーサリーを唱えることにシナジーを置いているデッキにおいて巨大な呪文はシナジーへの貢献がなく、大した量のマナを用意できない状況下でこれらは手札で腐りがちだからである。
また、繰り返しになるが複製した呪文は唱えたことにならないこともシナジーから遠ざかる一因になっている(そういう点では、そもそも大多数の複製持ち呪文がデッキにシナジーしているとは言えない)。
なので、手っ取り早くこれらのカードはラヴニカのギルドの使えるカードに差し替えた方がよい。
我が家では《啓発のジン》を《パルン、ニヴ=ミゼット》に、《火想者の発動》を《発展+発破》に入れ替えた。その結果、まぁまぁ戦えるデッキになった。
身内から「《パルン、ニヴ=ミゼット》は強すぎるのではないか」という懸念があったが、そもそもこれはデッキに軽量ドロースペルが大量に入っていることが大前提なので、ギルド・キットのデッキパワーでは妥当な強さだと私は思っている。
総括
なんだかんだで、ギルド・キットで遊ぶのはとても楽しい!
なにせ、多種多様なラヴニカのカードが試合で現れるので、どっぷりとラヴニカの雰囲気に浸れるのだ。
また、使うにはハードルの高い《スフィンクスの啓示》や《死儀礼のシャーマン》などの禁止級に強いカードも入っているので、ラヴニカが有するパワーカードを存分に味わうことができる。
さらに繰り返しになるが、ギルド・キットは基本土地と一部の伝説のクリーチャーが特殊アートで描かれているだけでなく、過去のラヴニカのカードならばエキスパンション・シンボルがギルド・シンボルになって刷られている。これもギルド・キットだけの要素であると言えるだろう。
私はこれからもギルド・キットで遊び続けるだろう。
皆も自分が推すギルド・キットを買って、マジックしよう!
*1:あなたの次のターンまで、それらのパーマネントでは攻撃もブロックもできず、それらの起動型能力を起動できない。
*2:このクリーチャーが死亡したとき、飛行を持つ白であり黒である1/1のスピリット・クリーチャー・トークンをN体生成する。
*3:(呪文能力の後に)その後、あなたはあなたがコントロールするクリーチャー1体に暗号化した状態で、この呪文カードを追放してもよい。そのクリーチャーがプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、それのコントローラーはその暗号化したカードのコピーを、それのマナ・コストを支払うことなく唱えてもよい。
*4:あなたはあなたの墓地から、このカードを、これの他のコストの支払いに加えてカード1枚を捨てることで唱えてもよい。その後、このカードを追放する。
*5:このターンに対戦相手がライフを失っていたなら、あなたはこの呪文を、これのマナ・コストではなく絢爛コストで唱えてもよい。
*6:あなたがカードを引く場合、代わりにあなたはあなたのライブラリーのカードを上からちょうどN枚、あなたの墓地に置いてもよい。そうした場合、あなたの墓地にあるこのカードをあなたの手札に戻す。そうしなかった場合、カードを1枚引く。
*7:あなたの墓地にあるクリーチャー・カードの枚数を参照する能力語。
*8:このターン、対戦相手1人にダメージが与えられている場合、このクリーチャーはその上に+1/+1カウンターがN個置かれた状態で戦場に出る。
*9:クリーチャーが持つ能力語。そのクリーチャーと少なくとも2体の他のクリーチャーが攻撃するたび、何かしらの恩恵をもたらす
*10:このクリーチャーが攻撃するたび、パワーがこれよりも小さい攻撃クリーチャー1体を対象とする。それの上に+1/+1カウンターを1個置く。
*11:あなたのクリーチャーが、この呪文を唱える助けとなる。この呪文を唱えるに際しあなたがタップしたクリーチャー1体で、(1)かそのクリーチャーの色のマナ1点を支払う。
*12:あなたがコントロールするクリーチャー・トークン1体のコピーであるトークンを1体生成する。
*13:このクリーチャーの上に+1/+1カウンターが置かれていないなら、これの上に+1/+1カウンターをN個置く。
*14:次元カードの束である「次元デッキ」から新たに次元カードをめくり、元の次元カードは次元デッキの一番下に戻す
*15:次元デッキからその次元カードがめくれること